ミトラ教6 - ズルワーン教 |
(転載)
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ズルワーン教の定義
バビロニアの祭司とメディアのマギの混血により生まれたカルデアン・マギが創始した宗教。
ズルワーン教は、アケメネス朝時代中期に台頭したカルデアン・マギが、バビロニアの占星術と宇宙論をもとにして築いた宗教である。
ズルワーン教は、マズダー教の神話・教義をとりこんで、ミトラ神話を再構築して、マギの宗教を復活させた。
教義上の重要なポイントは、次の五つである。
①アフラ=マズダーとアンラ・マンユを超える神ズルワーンが存在する。ズルワーンこそが真の至高神(万物の根源としての一者)である。
②天上王権は、ズルワーン→アフラ=マズダー→ミトラという順序で移譲される(天上王権継承神話)。
③ミトラは、アフラ=マズダーとアンラ・マンユの戦いを終わらせる。
④現在は、ミトラが世界統治を引き受けている。
⑤ミトラは、七曜神および*ヤザタ神族を指揮している。
ズルワーン教が敷いた路線は、その後順調に発展し、西方ミトラ教(ミトラス教)(前二世紀)と
東方ミトラ教(マニ教)(三世紀)という二つの世界宗教を生んだ。
その上、ズルワーン教自身は、ササン朝ペルシアの国教になった(三世紀)。
ササン朝内部の宗派抗争は激しいものであったので、ズルワーン教は、ササン朝の政治体制を維持するための政治的意図の強い宗教(官製宗教)であった。
このため、イスラームの攻撃を受けて、ササン朝が滅びると、ズルワーン教も滅びた。
成立 前5世紀
思想
ズルワーン教の神話には、アリヤマン(アンラ・マンユ)を天上王権継承系譜の中に位置付けようとする試みが見られる。
(1)1万2千年という世界周期において、アンラ・マンユが最初の9千年を統治し、アフラ=マズダーは残る3千年を統治する。
統治期間の順序・長さには、アリヤマン重視の思想が反映されている。
(2)ズルワーン(=ミトラ)は、アンラ・マンユが悪神であるから戦うのではなく、アンラ・マンユが統治の交代に関する約束を破ったので約束を守らせようとして戦っている。 これは、
①ズルワーン教神話のキーワードが「約束」と「周期」であり、ゾロアスター教(マズダー教)的な善悪二元論でないこと、
②ズルワーンのミトラ化、ズルワーンとミトラの一体化を意味している。
(3)初期ズルワーン神話における天上王権の継承順序は、
ズルワーン→アンラ・マンユ→アフラ=マズダー→ミトラであった(後述の神話参照)。
しかし、時代が下ると、アンラ・マンユがはずされ、ズルワーン→アフラ=マズダー→ミトラに変えられた。
これはある意味で、ゾロアスター教との妥協であるが、この妥協により、ズルワーン→アフラ=マズダー→ミトラという天上王権継承がゾロアスター教にも支持されるようになったことの意義は大きい。
*ズルワーン 〔中〕無上光明王。最高神にして、万物の根元である一者
*アフラ=マズダー アフラ=マズダーという名前は、「叡智の霊」を意味する。光の中に住む善神。全知だが、全能ではない。
*アンラ・マンユ アンラ・マンユという名前は、怒りの霊を意味する。闇の中に住む悪神。暗愚、醜悪、無慈悲、嫉妬深く、強欲。六大魔を従えている。
ゾロアスター教によれば、アンラ・マンユ(怒りの霊)は、アリヤマン(アーリマン)をさしている。
ズルワーン教は、アンラ・マンユがアーリマンであるというマズダー教の解釈を否定していない。
1.双子の誕生
ズルワーンは、最初に生まれ出た者に天上王権*を渡すという約束(請願)を守り、一万二千年という世界周期(アイオーン)を定めた上で、
最初の九千年をアンラ・マンユの支配期間、最後の三千年をアフラ=マズダーの支配期間とした
2.原初の創造
アンラ・マンユは自分の支配期間を長くしようと画策し、アフラ=マズダーを亡きものにしようとした。
アフラ=マズダーは中間領域のなかにコスモスをつくり、まずアムシャスプンタ*を召喚した。しかし、アムシャスプンタは、静止したまま動かなかった。
アフラ=マズダーは、いのちを与える能力に欠けていたからである。そこで、アフラ=マズダーは、ミトラからワユ(生気)を分けてもらい、それをアムシャスプンタに吹き込んだ。
アフラ=マズダーは、アムシャスプンタが生命をもったことを確かめると、自分自身とアムシャスプンタを実体化させ、天空、水、大地、植物、火、聖牛、原人をつくりだした。アフラ=マズダー自身は、七番目に実体化し、ミトラを原像(理想像)として、原人になった。
3.三柱の審判者
それから、アフラ=マズダーは、ミトラのために住居をつくり、三柱の審判者ミトラ、スラオシャ(聖なる言葉の化身。信徒を教え導く)、ラシュヌ(裁きの神。魂に試練を課して試し、善悪の応報を与える)を召喚した。
その後、世界のために必要なので、ヤザタ神族を召喚した。
4.アフラ=マズダーの敗北
アンラ・マンユは、全悪魔を率いて世界を攻撃した。悪魔の軍団は、天空殻を突き破り、大洋を通り抜けて、大地の中央に侵入し、手当たり次第に攻撃・破壊した。
大地は、真っ暗になり、真昼なのに真夜中のようになった。
魔物が徘徊し、邪気が広まった。
アンラ・マンユの軍団の攻撃は、成功し、世界は荒廃した。
まず水を塩水に変え、次に大地を砂漠に変えた。ついで、百種樹を枯らし、聖牛と原人を殺した。
最後に、仕上げとして、火を煙で汚した。
惑星たちは、無数の悪魔たちとともに天球層に攻撃をしかけた。彼らは星座を混乱させた。あたかも火があらゆる場所を歪ませ、そこから煙がたち昇るように、全被造物が歪んだ。
こうして、アフラ=マズダーの被造物は戦いに敗れたかのように見えた。
しかし、アンラ・マンユが軍団を率いて故郷に帰ろうとすると、鎧兜で身を固めたフラワシ*たちが天空の道をふさいでいた。九〇昼夜におよぶ激戦の末、フラワシたちは、アンラ・マンユの軍団を地獄に投げ落とした。天上には累壁が築かれ、闇の軍団がもはや襲撃して来られないようにした。
地獄は大地の中にある。そこに邪悪な霊は大地を貫通して入り込んだ。有象世界のあらゆるものが二元性をもつものへと変わっていった。
迫害、争い、高みにあるものと低次元のものとがごちゃまぜになって顕現しはじめた。
植物の守護女神アムルタートと雨神ティシュトリヤ*は、ハオマと雨を世界にふりそそぎ、より多くの植物が育つように大地を豊かにした。
聖牛の四肢からは、五十五種類の穀物と十二種類の薬草が生まれた。
牛の脊髄からあらゆる植物が分かれ出た。
聖牛は、月にひきあげられて、そこで徹底的にきよめられた。
聖牛の種子は、再び大地に降りると、二八二体の男女の原種になった。
鳥は空にあふれ、魚は水にあふれた。
千年の間、動物たちは何も飲み食いしなかった。
その後、まず水を飲むようになり、次に植物を食べるようになった。
その後、三つに分類される動物が作り出された。最初は山羊と羊、次にラクダと豚、それから馬とロバである。
5.人間の誕生
原人の種子は、太陽に引き上げられ、ミトラのもとで徹底的にきよめられた。原人の種子は、大地に降ろされると、ミトラ月のミトラ日に一本の人間樹*として生え出た。
四〇年間は茎が一本しかない植物のかたちで、十五年間は十五枚の葉をつけたかたちで、マトローとマトローヤオは腕を互いの肩の後ろにまわしたかっこうで地中から生えていた。
やがて、両者は、植物の形から人間の形へと変化した。
アフラ=マズダーは、マトローとマトローヤオにこういった。「おまえたちは人間である。おまえたちは世界の先祖である。おまえたちを、わが娘である大地の女神アールマティーの上に存在させたのは、このわたしである。それゆえ、わが法の命じる義務を献身的に果せ、善行をなせ、いかなる悪魔も崇拝するな!」。
二人は最初こう考えた、「一方が他方を喜ばせよう」。彼らが最初に行ったことは、自分たちを徹底的に洗うことだった。
彼らが最初にしゃべったことは、「天則(天道)のもとにあるすべて、すなわち水、大地、植物、動物、星々、月、太陽、そして繁栄のすべてを創造したのは、アフラ=マズダーである」ということであった。
ところがその後、彼らの精神の中に対立する考えが殺到し、彼らの精神は徹底的に腐敗し、彼らは、邪悪なる霊が 水、大地、植物、動物、そしてその他先に述べたすべてのものを創造したと叫んだ。この虚偽は、アンラ・マンユの意志によるものだった。アンラ・マンユは、彼らから最初の喜びを得た。
虚偽を語ったことによって、彼ら二人は、邪道に落ちた。彼らの子孫、すなわち人類は、指針を失い、暴力と悪意がはびこるようになった。
6.ミトラの世界統治と死後の裁き
これを見て、アフラ=マズダーは、もはや自分の手におえないと判断し、公正なるミトラに世界の統治権(天上王権)を譲り、自分は来世の統治に専念することにした。アムシャスプンタも、これに賛同した。
こうして、ミトラが世界を統治することになった。ミトラは、スラオシャ、ラシュヌ、七曜神、十二星座の女神などからなるヤザタ神族をしたがえて、世界の正義と秩序を見張り、生き物たちすべてを監督し、アンラ・マンユたちの攻撃から彼らを守り、彼らの魂をきよめる仕事に着手した。
ミトラは、アシャ(正義)を基準として、ドゥルジ(虚偽)にしたがう者を罰し、世界に公平さと正義をつくりだした。ミトラは人間の一生を見守り、アシャを基準として、死後の裁きをおこなうことにした。裁きは、三柱の審判者ミトラ、スラオシャ、ラシュヌに、アフラ=マズダーとウォフ・マナフが加わって、五柱の合議で行う 善いことをした者は、チンワトの橋をわたって、アフラ=マズダーが待つ光の中に迎えられる。悪いことをした者は、橋から転落し、奈落の底に落ちていく。
ミトラが、このような徹底した正義の統治を行ったので、この世は秩序と平和を取り戻した。
しかし、アンラ・マンユは、これを黙ってみていたわけではない。さらに多くのダエーワ魔族をつくりだし、ヤザタ神族に対抗すべく、出撃させた。かくて、この世は、神族と魔族の戦場となった。
あるとき、ひとりの聖者が叡智の霊に「ミトラの勝利に貢献するためには、何をすればよいのですか」と尋ねた。
すると、叡智の霊は、「一日三回、太陽の方を向いて、ミトラに祈るがよい」と答えた。そこで、人々は、一日三回ミトラに祈るようになった。
7.五惑星、太陽と月
五惑星は邪悪な霊の煙と闇に惑わされ、神々に攻撃をしかけた。そこで五惑星は調伏され、星座・恒星の監督と助力を受けるようになった。
彗星はミトラから定期的に光を分けてもらうかわりに、もう悪さをしないと約束した。
これら五つの惑星が勝手なことをしないように、太陽なるミトラと月なる女神マーフは、それぞれが五つの惑星それぞれに二本一組の糸をかけてそのふるまいを制御している。
五惑星が逆行するのは、ミトラと女神マーフが糸をたぐりよせるためである。木星と土星の糸は長く、水星と金星の糸は短い。
彼らは五惑星が遠くはなれて勝手なふるまいをしようとするとたぐりよせ、五惑星が地上の生き物たちを傷つけないように絶えず監視している。
8.最終戦争
周期の終わりが来ると、三柱の審判者ミトラ、スラオシャ、ラシュヌが現れる。彼らは、アンラ・マンユに、統治権交代の時が来たことを宣言し、
アンラ・マンユがつくりだしたものすべてを破壊し、最後に大暗母アズをも打ち倒す。これにより、アフラ=マズダーのつくりだしたものは、ようやく平穏と安泰を得る